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福岡地方裁判所 平成7年(行ウ)16号 判決 1998年1月21日

原告

九州旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役

石井幸孝

右訴訟代理人弁護士

三浦啓作

奥田邦夫

岩本智弘

被告

福岡県地方労働委員会

右代表者会長

青木正範

右指定代理人

山本進平

中富倫彦

香川忠雄

末吉英二

新開勝則

被告補助参加人

全日本鉄道労働組合総連合会

右代表者執行委員長

福原福太郎

被告補助参加人

ジェーアール九州労働組合

右代表者中央執行委員長

北弘人

右両名訴訟代理人弁護士

小野裕樹

主文

一  被告が福岡労委平成三年(不)第一〇号、第一一号不当労働行為救済申立併合事件について、平成七年七月二八日付けでした命令のうち別紙一記載の主文中、次の部分を取り消す。

1  主文第2項のうち、乗務員更衣室のロッカーに配布されたビラを回収したりして被告補助参加人ジェーアール九州労働組合の組織運営に支配介入することを禁止した部分

2  主文第3項(2)のうち、手交を命じた文書の内容のうち1の部分

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用(補助参加によりて生じた費用も含む)は四分し、その二を原告、その一を被告、その余を被告補助参加人ジェーアール九州労働組合の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が福岡労委平成三年(不)第一〇号、第一一号不当労働行為救済申立併合事件について、平成七年七月二八日付けでした命令のうち別紙一記載の主文第1項ないし第3項を取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)らの救済申立に対し、被告が平成七年七月二八日付けで原告に別紙一記載の主文第1項ないし第3項の救済命令(以下「本件救済命令」という。)を発したので、原告がその取消しを請求した事案である。

一  争いのない事実

1  補助参加人らの救済申立

補助参加人全日本鉄道労働組合総連合会(以下「JR総連」という。)、補助参加人ジェーアール九州労働組合(以下「JR九州労」という。)は、被告に対し、原告を被申立人とする福岡労委平成三年(不)第一〇号、第一一号不当労働行為救済の申立てをした。

2  被告の救済命令の発付

被告は、右申立てのうち、原告の職員が次の内容の不当労働行為をしたと判断し、本件救済命令を発した。

(一) 直方気動車区勤務の組合員宅での原告職制の言動(以下「直方事件」という。)

平成三年一一月二九日一九時三〇分ころ、原告会社運輸部管理課社員係長(非組合員)である迫田繁充(以下「迫田係長」という。)は、九州旅客鉄道労働組合(以下「九州労組」という。)の組合員である前田忠助役(以下「前田助役」という。)と共に、直方気動車区の車両技術主任である三瀬勝正の自宅を訪問し、三人で一時間ほど話をしたが、西日本旅客鉄道労働組合(以下「西労組」という。)及び東海旅客鉄道労働組合(以下「東海労組」という。)の分裂並びに九州労組内の混乱などが話題に上がった際、迫田係長は、三瀬勝正に対し、「組合分裂は起きないほうがよい。」、「新組合を作るような動きには同調しないでくれ。」などと述べた。

(二) 鹿児島運転所での原告職制によるビラ回収、移し替え(以下「ビラ回収事件」という。)

(1) 平成三年一二月一三日九時三〇分ころ、鹿児島運転所の小田原哮所長(以下「小田原所長」という。)は、所内を巡視中、乗務員更衣室において、五〇個ほどのロッカーの扉に、「JR九州労結成準備会アピール」、「JR九州労結成準備会ニュースNo.3」及び「JR九州労結成準備会ニュースNo.4」と題したビラが差し込まれているのを認め、一緒に巡視を行っていた福崎宏夫首席助役(以下「福崎助役」という。)らとともにこれらのビラを回収し、在室していた組合員に返却した。

(2) 平成三年一二月一八日一七時四〇分ころ、福崎助役は、乗務員更衣室の六〇個ほどのロッカーの扉に「JR九州労結成準備会ニュース一二月一七日号」が入った封筒等が差し込まれているのを認め、翌一九日九時三〇分ころ、組合事務所に電話をかけ、対応した組合員に対し、同日一〇時までに封筒を差し替えない場合は同助役らが移し替える旨を告げ、同日一〇時ころ、右封筒を回収し、個人別の状差しに宛名どおり移し替えた。

(三) 鹿児島運転所での原告職制による個人名を挙げてした掲示(以下「掲示事件」という。)

平成三年一二月一八日一一時三〇分ころから同日一三時三〇分ころまで、小田原所長は、別紙二記載の内容を記した「会社規律の維持について」と題する文書を鹿児島運転所の掲示板に掲示(以下「本件掲示」という。)した。

3  当時の労働組合の状況

(一) 平成二年六月、JR総連は、第五回定期大会において、ストライキ権の確立及びストライキ指令権のJR総連への委譲に関する加盟単組内における討議(以下「スト権論議」という。)を提起した。

スト権論議の提起後、JR総連に加盟する西労組と東海労組において、JR総連からの脱退問題ないし運動方針等をめぐる機関運営上の対立が発生し、JR総連を支持する組合員らは、各労組を脱退して、平成三年五月二三日にジェーアール西日本労働組合(以下「西労」という。)を、同年八月一一日にジェィアール東海労働組合(以下「東海労」という。)を結成し、それぞれ同年五月二四日及び九月一一日にJR総連に加盟した。

一方、西労組及び東海労組は、それぞれ同年七月四日及び一一月一五日にJR総連を脱退した。

(二) 平成三年一〇月四日、九州労組の臨時中央執行委員会で、石津兼久中央執行委員長(以下「石津委員長」という。)が機関決定を経ないで東海労のJR総連加盟を了承したとすることで紛糾し、石津委員長が退出した後、残った執行委員らは一力忠中央執行副委員長(以下「一力副委員長」という。)を仮議長に選出して、同年一一月三〇日の「東海労のJR総連加盟問題に関する九州労組の対応」及び「西労支援特別対策費の扱い」を議題とする臨時大会開催を決議した。

(三) 臨時大会開催決議をめぐって石津委員長を支持するグループ(以下「石津グループ」という。)と一力副委員長を支持するグループ(以下「一力グループ」という。)が対立し、平成三年一〇月三一日、一力副委員長は石津委員長に対して臨時大会の招集手続を求める仮処分申請を行い、更に同年一一月九日の中央執行委員会では、<1>組織を混乱させたことなどを理由とする石津委員長の執行権停止、<2>一力副委員長による臨時大会招集手続の代行、<3>一力副委員長による臨時大会終了までの中央執行委員長の代行を決議した。

これに対し、石津委員長は、同年一一月一二日、これらの決議の効力停止等を求める仮処分申請を行った。

(四) 平成三年一一月三〇日臨時大会が開催され、九州労組のJR総連からの脱退及び石津委員長の解任が決議された。

(五) 平成三年一二月八日、石津グループらJR総連との連携を主張する組合員らによって、JR九州労結成準備会が組織され、同月二一日、同準備会を母体に、JR九州労が結成されたことにより、九州労組は分裂した。なお、JR九州労は結成と同時にJR総連に加盟した。

二  争点

1  直方事件

原告職制による言動が不当労働行為となるかが争点であるが、被告が認定した迫田係長の発言の有無が主要な争点となる。

2  ビラ回収事件

原告職制によるビラの回収、移し替えが不当労働行為となるかが争点であるが、その前提として、本件のビラの配布が正当な組合活動といえるかが主要な争点となる。

3  掲示事件

原告職制による個人名を挙げての掲示が不当労働行為となるかが争点であるが、その前提として本件の署名活動やビラの配布が正当な組合活動といえるか、仮に正当でないとしても個人名を挙げて掲示することが許されるかが主要な争点となる。

三  原告の主張の要旨

1  直方事件

迫田係長は三瀬勝正宅を訪問し、世間話として九州労組の臨時大会について話をしたことは事実であるが、被告が認定したような九州労組の分裂や新組合の設立に関して発言をしたことはない。JR九州労の結成は平成三年一二月八日の準備会の発足をもって公然と打ち出されたものであり、三瀬宅訪問の当時には、九州労組内部において臨時大会開催手続及びこれらの賛否の情宣活動が両派に分かれてなされていたのみで、分裂、新組合結成を前提としての動きは一切生じていないのである。

迫田係長の発言が九州労組内部の事情に話題が及んだとしても単なる世間話の範疇に留まるものであり、不当労働行為となるものではない。

2  ビラ回収事件

労働組合又は組合員は使用者の許諾なしに会社施設を組合活動のために利用する権限はないから、その利用の必要性が大きくても、利用を許さないことが使用者の権利の濫用となる場合を除き、使用者は労働組合又は組合員による会社施設の利用を受忍する義務はない。

本件では原告がビラの配布を許諾しないことが権利の濫用となる事情はなく、ビラの配付は正当な組合活動ということはできないから、原告職制がビラを回収、移し替えることは正当な行為であり、不当労働行為となるものではない。

3  掲示事件

使用者の許諾を得ないビラ配布や署名活動は正当な組合活動ではないから、それを非難する内容の掲示をすることは許されるのであり、本件掲示は不当労働行為となるものではない。

四  被告の主張の要旨

1  直方事件

迫田係長の三瀬勝正に対する九州労組の分裂や新組合の設立に関しての発言は、JR九州労の結成及び同組合への支配介入行為であるとともに、後に上部団体となったJR総連の組織運営に対する支配介入行為であり、迫田係長の職責からすれば、同人が行った言動について原告は責任があり、不当労働行為となる。

2  ビラ回収事件

本件ビラはロッカーの扉の風穴に差し込む方法で配布されたもので、内容もJR九州労結成に向けて組合員を確保するためにJR九州労への加入を呼びかけるものであって、原告会社の職場秩序や業務を阻害するおそれがない特別の事情が認められる正当な組合活動である。原告の許諾がなくても原告が規制することができないものであり、原告職制によるビラの回収、移し替えは、JR九州労の結成を妨害する不当労働行為となる。

3  掲示事件

本件ビラ配布や署名活動は正当な組合活動であるから、これを非難する本件掲示はJR九州労の結成を妨害する不当労働行為となる。

五  補助参加人らの主張の要旨

1  直方事件

迫田係長は原告の意を受け、三瀬勝正のJR九州労加入を思い留まらせるために三瀬宅を訪問したのであるが、その際単独で訪問してはあまりに不自然であることから、三瀬と同じ職場であった期間がより長く、九州労組の組合員でもある前田助役に片棒を担がせたものである。

2  ビラ回収事件

本件ビラの配布は、その必要性、態様、業務への影響を考慮すれば、正当な組合活動の範囲内というべきであり、原告が規制できるものではない。これまでも組合員が許可を受けることなく施設内でビラの配布や署名活動をやってきたが、何ら注意されたことはない。

本件当時は、JR九州労結成準備のため特に迅速確実な情報伝達が必要とされていたのであり、小田原所長らの違法なビラ回収、移し替えにより、情報伝達が妨げられたものである。

3  掲示事件

仮に本件ビラの配布や署名活動の中に正当な組合活動の範囲を越えるものがあったとしてもその程度は軽微である。本件掲示は、個人名を挙げたうえ、根拠のない脅迫的な表現でその行為を非難しており、明らかに均衡を失したものであって、正当な組合活動に対する不当な干渉である。

第三当裁判所の判断

一  直方事件について

1  証拠(<人証略>)によれば、平成三年一一月二九日一九時三〇分ころ、原告会社運輸部管理課社員係長の迫田繁充(非組合員)が前田助役と共に、直方気動車区の車両技術主任である三瀬勝正の自宅を訪問し、三人で翌三〇日開催される九州労組の臨時大会について話をしたことが認められる。

そこで、迫田係長に被告が認定したような九州労組の分裂やJR九州労の結成についての発言があったかについて、以下、検討する。

2  三瀬証人は、迫田係長が「JR九州は小さい会社だから、組合は分裂せんほうがいいと思うが三瀬さんどう思うかい」、「九州労組が分裂の機運があるが、三瀬さん出ていかないでくれ」、「仮に出ていっても、若い者を引っぱって行かんでくれ」と発言したと証言している。

これに対して、迫田証人は、前田助役が思い出話とか近況とかを話すうちに、西労組や東海労組の分裂の話をし、九州労組のことも新聞に出ていたが検修職場はグループ作業だからまとまった方がいいなという話をしたときに、迫田係長自身は、三瀬に一度「どう思うな」と発言したのみであり、当時は臨時大会の開催をめぐって対立はあったが、分裂の話は出ておらず、分裂するという認識はなかったと証言している。

前田証人は、前田助役自身が三瀬に「検修職場はまとまった方がいい。もし、分裂するようなことがあったら、三瀬さん、引っ張っていってくれんな。」と発言したが、迫田係長は組合関係の話題については発言せず、黙っていたと証言をしている。

3  以上の三証人の証言の中では、三瀬証人の証言が当時の九州労組の状況に照らして信用できるものであると判断する。

当時の九州労組の状況は、平成三年一一月三〇日に臨時大会を開こうとする一力グループと、これを阻止しようとする石津グループとが対立し、互いに相手方を非難するビラを配布したり、仮処分を申請するなどの緊張関係にあり、西労組や東海労組はすでに分裂しており、新聞の論調も分裂の可能性を報道していた(<証拠略>)のであるから、臨時大会の結果如何では九州労組の分裂が懸念され、原告会社に関係する者は皆重大な関心を持っていたものと推測される。迫田係長も同様であったと思われ、分裂について認識がなかったとする迫田証人の前記証言は不自然であり、信用できない。また、前田証人の証言も迫田係長の存在、発言をことさら弱く見せようとしており、不自然で信用できない。

原告は、JR九州労の結成は平成三年一二月八日の準備会の発足をもって公然と打ち出されたものであり、三瀬宅訪問の当時には、分裂、新組合結成を前提としての動きは一切生じていないと主張する。

確かに、分裂、新組合結成に向けての公然とした動きは原告の主張のとおりであるとしても、公然となる以前の時点で、将来がどのようになるかを予測し、それに基い(ママ)て対応策を検討するのが通常人の行動パターンであることに照らして、原告の主張は採用できない。

4  石津グループはスト権論議を提案したJR総連との連携を重視するグループで、一力グループは原告との労使協調を目指すグループであったから、原告の立場からは九州労組が分裂せず、一力グループが多数派となること、仮に石津グループが分離しても少数派に留まってほしいとの期待を有していたものと思われ、原告の職制は、右の原告の期待を共感していたものと思われる。

迫田係長は、かっ(ママ)ては三瀬勝正と直方気動車区検修職場に勤務し、同棟の宿舎に居住していたが、転勤後は三瀬宅を訪ねたことがない(<人証略>)のであって、その迫田係長が単なる世間話をするために、臨時大会を翌日に控えた時期にわざわざ三瀬宅を訪問したとは考えられない。

訪問には強い目的意思があったと考えるのが自然であり、当時の状況からすると臨時大会後に九州労組の分裂、新組合の設立の動きがあった場合に三瀬勝正に九州労組に留まってまとめてほしいとの依頼をするためであったと判断すべきである。

以上のとおり、当時の九州労組の状況に照らすと、三瀬証人の証言内容は信用でき、迫田係長が被告が認定したような発言をしたことを認めることができる。

5  本件当時のような石津グループと一力グループの対立が激化し、九州労組の分裂が予測された場合には、原告としては中立を守り、厳正な立場に立って一方のグループに肩入れをしているような行動をしてはならないものであって、迫田係長の三瀬宅訪問と言動はJR九州労の結成及び同組合への支配介入行為であるとともに、後に上部団体となったJR総連の組織運営に対する支配介入行為となるといわなければならない。

迫田係長は原告会社運輸部管理課社員係長の職にあったが、右職は労働協約三条二号の人事、労務担当の係員に該当するものであり、平成三年一一月二九日当時非組合員とされ、団交等にも会社側メンバーとして出席していた(<証拠・人証略>)のであるから、その職責からして迫田係長の行為について原告は責任があり、不当労働行為となるというべきである。

二  ビラ回収事件について

1  証拠(<証拠・人証略>)によれば、次の事実が認められる。

(一) 平成三年一二月八日に石津グループによりJR九州労の結成準備会が九州労組の中で組織され、原告会社の一部の職場では石津グループの組合員らが自らの勤務時間外に職場内に立ち入り、勤務時間内外の組合員に対し、無許可でビラ配布やJR九州労の加入届への署名を迫ったりした。鹿児島運転所においても勤務時間外の組合員が職場の中に立ち入り、JR九州労の組合員獲得に向けた署名活動をしたり、同労組への加入を呼びかけるビラを同所乗務員更衣室のロッカーに差し込んだりした。

そこで、原告は、会社施設内におけるこれらの行為は職場規律を乱すものと判断し、現場長に対し職場規律保持に努めるように指導した。鹿児島運転所の小田原所長も右指導を受け、職場内で署名活動したり、ビラの配布を行わないように注意をしていた。

(二) 平成三年一二月一三日九時三〇分ころ、小田原所長は、所内を巡視中、乗務員更衣室において、五〇個ほどのロッカーの扉に、「JR九州労結成準備会アピール」、「JR九州労結成準備会ニュースNo.3」及び「JR九州労結成準備会ニュースNo.4」と題したビラが差し込まれているのを認め、一緒に巡視を行っていた福崎助役らとともにこれらのビラを回収し、在室していた組合員鶴本真に返却した。

(三) 平成三年一二月一八日一七時四〇分ころ、福崎助役は、乗務員更衣室の六〇個ほどのロッカーの扉に「JR九州労結成準備会ニュース一二月一七日号」が入った封筒等が差し込まれているのを認め、翌一九日九時三〇分ころ、組合事務所に電話をかけ、対応した組合員に対し、同日一〇時までに封筒を差し替えない場合は同助役らが移し替える旨を告げ、同日一〇時ころ、右封筒を回収し、個人別の状差しに宛名どおり移し替えた。

2  原告会社では、会社内での組合活動について就業規則(<証拠略>)で左記のとおり許可制を定めている。

第九条 社員は、終業時刻後速やかに退出しなければならない。ただし、会社の命を受けた場合又は会社の許可を得た場合は、この限りでない。

第二二条 社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしてはならない。

2 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で、選挙運動その他の政治活動を行ってはならない。

第二三条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。

石津グループによる前記署名活動やビラ貼りは許可を得ていないものであるが、許可がないということだけですべての組合活動が違法となるものではない。許可制とされた場合であっても、署名活動の目的、態様、ビラの内容、配布状況等に照らして職場秩序や業務を阻害するおそれがない特別の事情が認められるときは実質的には違反とはならないものといえる。そこで、本件では、この特別の事情があるかどうかが次の問題となる。

3  本件署名活動は、職員に署名という具体的行為を求めるという点で職場秩序や業務に本来影響を与えるものであり、特別の事情を認めることはできないから、これを禁止する小田原所長の行為は正当である。

これに対して、本件ビラの配布は、ビラの内容そのものはJR九州労結成に向けて組合員を確保するために加入を呼びかけるものであって、組合としては当然の内容であり、この点での問題点はなく、配布の態様もロッカーの扉の風穴に差し込む方法で配布されたもので、それほど職場秩序や業務に影響を与えるものではないように見える。

しかしながら、当時の九州労組の情勢は、九州労組から分裂してJR九州労を結成しようとする石津グループとこれを阻止しようとする一力グループの両派の対立が険悪な状況となっており、原告が両派の活動を傍観すれば、対立が更にエスカレートして職場秩序や業務に深刻な影響を与える危険があったのであり、本件ビラの配布に特別の事情を認めることはできず、正当な組合活動であるとはいえない。

右のような状況下にあっては、原告としては厳正な立場に立って職場秩序を守る必要があったものであるし、ビラ回収の態様も、原告の立場を説明し、注意したにもかかわらず、従わないので、実力を行使したのであり、回収したビラも組合員に返すか、個人別の状差しに移し替えており、組合活動の情報伝達に対する影響も小さかったものであり、行き過ぎは認められず、相当である。

補助参加人らは、これまでも許可を受けることなく施設内でビラの配布や署名活動をやってきたが何ら注意されたことはないと主張するが、(人証略)に照らして、信用することはできない。

4  以上により、小田原所長らのビラの回収や移し替えは相当であり、このことがJR九州労の結成活動を妨害する支配介入行為であるということはできない。

三  掲示事件について

1  証拠(<証拠・人証略>)によれば、平成三年一二月一八日一一時三〇分ころから同日一三時三〇分ころまで、小田原所長は、別紙二記載の内容を記した「会社規律の維持について」と題する文書を鹿児島運転所の掲示板に掲示(本件掲示)したことが認められる。

2  二の3で述べたとおり、本件の署名活動やビラ配付は正当な組合活動であるとは認められないから、小田原所長がこれを非難することは原則的に許されることである。しかしながら、原則的に許されることであってもその態様が相当性を逸脱する場合には許されないと解される。

3  そこで、非難の態様が相当性を逸脱しているかについて検討するに、本件で掲示された文書は、個人名を挙げて非難しており、その影響は口頭で注意したことに比べるとはるかに大きく、組合員のした署名活動やビラ配布に対比して均衡を失するものである。このような相当性を逸脱した本件掲示はJR九州労の結成活動を妨害する支配介入行為というべきである。

四  結論

以上に判断したとおり、被告がした本件救済命令の主文第2項のうち、乗務員更衣室のロッカーに配布されたビラを回収したりしてJR九州労の組織運営に支配介入することを禁止した部分、及び、主文第3項(2)のうち、手交を命じた文書の内容のうち1の部分は適法ではなく、この点についての原告の請求は理由があるが、本件救済命令のその余の主文は適法であるので、この点についての原告の請求は理由がない。

(裁判長裁判官 草野芳郎 裁判官 和田康則 裁判官 石山仁朗)

別紙一

主文

1 被申立人は、ジェーアール九州労働組合の結成及び同労働組合への加入を妨害する運輸部管理課社員係長の言動により、申立人全日本鉄道労働組合総連合会の組織運営に支配介入してはならない。

2 被申立人は、乗務員更衣室のロッカーに配布されたビラを回収したり、ビラ配布などを行った者の個人名を挙げて組織活動を非難する掲示を行って、申立人ジェーアール九州労働組合の組織運営に支配介入してはならない。

3(1) 被申立人は、本命令交付の日から七日以内に、次の文書を申立人全日本鉄道労働組合総連合会に手交しなければならない。

当社運輸部管理課社員係長が、ジェーアール九州労働組合の結成及び同労働組合への加入を妨害する言動を行ったことは、福岡県地方労働委員会によって不当労働行為と判断されました。

今後このような行為により、貴組合の組織運営への介入を繰り返さないよう留意します。

平成 年 月 日

全日本鉄道労働組合総連合会

執行委員長 福原福太郎殿

九州旅客鉄道株式会社

代表取締役 石井幸孝

(2) 被申立人は、本命令交付の日から七日以内に、次の文書を申立人ジェーアール九州労働組合に手交しなければならない。

当社が行った下記の行為は、福岡県地方労働委員会によって不当労働行為と判断されました。

今後このような行為により、貴組合の組織運営への介入を繰り返さないよう留意します。

1 平成三年一二月一三日、鹿児島運転所乗務員更衣室のロッカーに配布されたジェーアール九州労働組合の結成に関するビラを回収したこと及び同月一九日、同様に配布されたビラを回収し、同所運転室にある状差しに移し替えたこと。

2 平成三年一二月一八日、鹿児島運転所において、ビラ配布などを行った者の個人名を挙げて、ジェーアール九州労働組合の結成活動を非難する掲示を行ったこと。

平成 年 月 日

ジェーアール九州労働組合

中央執行委員長 北弘人殿

九州旅客鉄道株式会社

代表取締役 石井幸孝

4 その余の申立てについては、棄却する。

別紙二

会社規律の維持について

時あたかも年末年始総点検がはじまって間もなく、田山、久木田、山内、下村、藤崎ヶ、渡辺、前田平、前田安、北、二俣の各社員は、所長、助役の再三の注意指導にもかかわらず、会社内において署名活動、ビラ配布等の行為を行い、会社の規律を著しく汚した。

会社は五年目を迎え全社員一丸となって会社を大事にし労使運命共同体という考えで進んできたにもかかわらず、このような会社の規律を乱す行為は会社を破滅・倒産に追い込む恐ろしい、悲しい、苦しいことであり許されない。会社内は仕事の場であり組合活動をはじめ、所長・助役を総点検摘発する場でもなく、むしろ会社業務に不当介入する行為等は、徹底的に正して行く必要がある。

社員の皆さん!!ここでもう一度自分達の大切な職場を見なおし、社員のための職場を守り、家族の幸せのため社業発展に向け全力をあげて頑張ろう!!

平成三年一二月一八日

鹿児島運転所長

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